9月某日、午前3時半過ぎ、窓越しからけたたましいサイレン音が響き、目が覚めた。近くで火事かと思いきや共用廊下より警報音が鳴り響いた。現 場は私が住むマンションのようだ。この状況でも寝息を立てている妻を揺り起こし、避難を促した。私は着の身着のまま玄関先で妻を待っていた。すると、彼女 はまるでこれから三越に行くかのようなよそ行きの格好に着替えていた。私は溜息まじりの深い息を吐き、扉を開けた。幸いにも火の手はこのフロアにまわって なく、また、低層階に住んでいた為、難なく非常階段を下り、外に出ることができた。そこは、避難した人と消防士でごった返していた。少し落ち着いたところ で妻が私に問いかけた。
『その格好履いてるの?』
私は答えた。
『安心してください。履いてます。』
寒さが身にしみる早朝の出来事でした。