その男はせっかちである。トイレの便器の前に立つより前にすでに一物を取り出していた。さすがにトイレに入る前からではないだろうと私の心配をよそにその男はトイレをそそくさと済ませ、手も洗わずにその場を後にした。以前、その男にトイレの後に手を洗わないポリシーについて力説されたことを思い出した。『トイレの蛇口をひねることは手を洗わないことよりも不潔な行為である。』
確かに公衆のトイレの蛇口にはどれほどの雑菌が潜んでいるもかとたやすく想像はできそうだが、その男が手を洗わずに後にした洗面所の蛇口は自動水栓であった。
その男はせっかちである。その男はキンカンをほおばりながら一方的に会話を進める。みかんよりキンカンを好んで口にするというが、おそらく皮をむく手間がないからだろうと私は憶測する。そういえば、その男はクラス対抗リレーでトップ走者を務めたことがあった。せっかちな性格から相当足が速いのだろうと期待されたが、フライイングを2回行い、そのクラスは失格になったそうな。
その男はせっかちである。私はその男に急がば回れと説きたい。