削りたての鰹節がかおる乾物屋の中央に、『ハンカチ』を『ハンケチーフ』と言いそうな白髪の老翁が店番をしていた。
『鰹節を90g、30gずつ小分けして下さい。』
『あいよ。』
老翁は鰹節を小袋に詰めて、金額を私に伝えた。
私は財布からお札を取り出して、老翁に手渡した。老翁は、宙でそろばんのはじきを弾く仕草をし、ゆびを舌で湿らせた後、お札と小銭を取り出して私に渡してくれた。
『おじいさん、計算早いですね。』
『最近の若い子はそろばんなんてやらないでしょ。私は得意でね。』
そろばんも達人の域に達すると、そろばんを持たずともそろばんのはじきが目の前に浮かぶものなのだろうか。
『ただね、歩きながらはダメだなぁ。はじきが踊ってまともに弾けないよ。ヘッヘッ。』
私は笑顔で軽く会釈をして店を後にした。