乾杯は宴において食事や飲み物に手をつけるきっかけであったり、仲間の健康や成功を祈念して行ったりする。先日、食事の席で些細なことで妻と喧嘩した。何がことの発端だったかもよく知れず、違う意見が平行線をたどり、ただただ不穏な空気が流れた。
今後の仕事のこと?
子供を授かったときの育児のこと?
これから起こることは誰も予想がつかないことで、きっと誰が正しいとか正解はないだろうと互いに気づきはじめた頃、静寂に耐えかねたのか、妻はグラスを手に私の前に掲げた。
これは応じるほかない。
私もグラスを手に彼女のグラスに軽く触れた。チンとグラスが奏でる音が互いの顔を綻ばせた・・
『違うよ。ほらっ、注いでくれる。』
どうやら私にグラスを掲げたのは仲直りの乾杯ではなかったようだ。