『もう帰るよ。』
『やだ、もう少し遊びたい。』
百貨店のおもちゃ売り場に魅了された齢4つくらい男の子が、母親の説得に応じない姿勢でいた。
『じゃあ、何時までいるの?』
男の子はしばらく沈黙したまま、自分の知っている遅い時間を模索している様子であった。
『七時。』
『ハハハ、そりゃ長いな。』
母親は息子の答えに思わず吹き出した。お昼時の時間であったので、息子が昼食返上でおもちゃ売り場に居座りたいという強い自己主張に母親はやや屈服した瞬間にもみえた。おもちゃ売り場ではこのような親と子の押し問答の光景がよく見られる。『これほしいっ。』『ダメ、買わない。』『買って!!』押し問答の果てに親はその主張を跳ね返すカードを切る。『誕生日まで待ちなさい。』あるいは、『サンタさんにお願いしなさい。』
私も幼少期は親と一連の押し問答をしていたのだと回顧する。ただ、興味を引くものは変われど、結婚後も妻と『これほしいっ。』『ダメ、買わない。』『買って!!』といった押し問答を大人になってもなお続けていることに不甲斐なさを感じる自分がいた。