今年の桜の開花は全国的にはやく、都内では4月を迎える前にほとんど散ってしまった。入学式に桜がないのもなんだか寂しいものである。
3月27日のお昼休みにクリニックの側ということもあって、私は東京都板橋という地名の由来でもある石神井川にかかる橋に訪れた。川沿いに植えられた桜はちょうど満開の見ごろであった。どことなく昨年よりもきれいに咲いた印象があった。しばしの花見雰囲気を味わった後に午後の診療の準備のためクリニックへ戻ることにした。途中でクリニックに通う患者さんを見かけたので声をかけた。
『お花見はされたのですか?』
『んぁ、もう見飽きた。』
卒寿を迎えたお婆様に少々愚問であったかもしれないが、予想だにしない答えに私は拍子を突かれた。これまでの人生で数十回も桜を見てきたとあってはやはり見飽きるものなのだろうか。私も卒寿を迎えたらこんな風に孫に言えたらなとほくそ笑んだ。『90歳何がめでたい』という昨年ベストセラーになった本のタイトルを思い出した。まだ、拝見したことがないが、おそらく長寿には若輩者には想像し得ない心境があり、そのような心の移り変わりが描かれた作品なのだろう。これは一読してみる価値がありそうだ。