カウンターに座る私の横で貴婦人が会計に立った。
貴婦人というのも大袈裟な言い現わしではなく、これでもかというくらいつばの広い帽子を深く被り、両手には煌めく宝飾が身につけられ、その出で立ちはまさにそれであった。
『カードは使えますか?』
『申し訳ありません。当店は現金のみの取り扱いとさせていただいてます。』
『あら、私現金を持っていませんの。近くの銀行で下ろしてきますので、少し待っていただけますか?』
『わかりました。では、お待ちしております。』
小一時間が経過しただろうか。
店主は次第にその顔色から不安が伺えはじめ、客の手前にもかかわらずたまらずつぶやいた。
『逃げられたか。』
好印象な相手であればあるほど、我々の警戒心というものは容易に緩むものである。
私は店主に店の隣にある銀行のATMの様子を見に行く旨を買って出た。
承諾してくれた店主の店を後にした私は足早に隣の銀行へ向かった。
このまま私も立ち去ればなどと不埒な考えと葛藤しながら、銀行の窓越しにATMに向かい合う貴婦人を見つけた。
『いやねぇ、どうやったらお金が下ろせるのかしら。』
どうやら生粋の貴婦人であったようだ