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執筆者の写真林院長

エレベーター


『まる、さんかく、しかく♪』 『イエイッ♪』 若い夫婦が一歳くらいの我が子に童謡を歌い聴かせていた。父親が歌い、母親が合いの手を入れていた。父親に抱きかかえられた小さな男の子は満面の笑みでいた。若い夫婦は我が子の笑顔に応えるように歌う声がさらに高まっていった。この微笑ましい光景は狭いエレベーターの中で繰り広げられていた。エレベーターの中は、三人家族だけの幸せ空間のように映っているが、実はエレベーターの隅には私がいた。私も一緒になって合いの手でも入れたら良いのか、家族の団欒を邪魔しないようにこのまま息を潜めたら良いのか、妙な葛藤があった。エレベーターという狭い空間で幸せが充満していくのを肌で感じているせいか、不思議なもので共有することができない歯痒さがあった。まる、さんかく、しかく♪というリズムカルな歌も相まってつい思わず私は、 『イエイッ』 と合いの手をつい入れてしまった。すると、エレベーターの扉が開き、三人家族は私に一礼してその場を後にした。

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