抗菌薬治療には経験的治療と標的治療がある。経験的治療は疾患と重症度、患者背景を考慮し、想定した起炎菌に十分作用する抗菌薬を選択する。標的治療は、後日判明した培養結果や抗菌薬感受性試験の結果を踏まえて、より感染巣・起炎菌に有効な抗菌薬に変更する。 経験的治療から標的治療に移行する際、抗菌薬のカバーすべき原因菌が経験的治療より狭域な抗菌薬で標的治療ができるのであれば、この治療戦略をデ・エスカレーションという。反対に経験的治療で選択した抗菌薬が有効でないことでやむを得ず広域な抗菌薬に変更する治療戦略をエスカレーションという。 デ・エスカレーション(抗菌薬の狭小化)は、抗菌薬による副作用の軽減や薬剤耐性菌の予防、そして、高額な広域抗菌薬の使用抑制による医療費の削減につながるなどメリットがいろいろとある。
皮膚科領域の感染症には丹毒、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎、褥瘡、糖尿病壊疽などがある。皮膚科領域の感染巣で想定される原因菌は黄色ブドウ球菌や溶連菌であることが多い。これらの原因菌に対してはペニシリン系や第1セフォム系で十分治療し得るものである。言い換えれば、皮膚科診療所で多く見られる市中感染症は、ペニシリン系や第1セフォム系抗菌薬で十分であって、緑膿菌感染など重症化した時の為のことを念頭に置くと広域抗菌薬であるカルバペネム系やニューキノロン系は最終手段としてとっておきたい。
このように、皮膚科領域の感染症は経験的治療の段階でペニシリン系や第1セフォム系の狭域抗菌薬を使用し、重症化した場合に広域抗菌薬を用いた標的治療を行うエスカレーションの治療戦略でも良いと私は考える。