『ガォー。』
3歳になる息子が突然、何を思ったのか隣に座っている女の子を威嚇し始めた。息子と同じくらいの年頃に見えたその女の子は、負けじと『ガォー。』と威嚇し始めた。
折角の夏休み、子供にとってはコロナ禍の自粛生活は酷である。デルタ株が猛威を振るう中、大人すら自粛生活に疲れ、緊急事態宣言による人流抑制なく、都内の街は人出に溢れていた。息子の夏の思い出にと慣れ親しんだ近隣の公園とひと味違う都内の大きな公園へと向かった。その道中の電車内での出来事である。
女の子の思わぬ反撃に遭い、息子はたじろぎ、私のほうへ振り返った。
『お父さん、おもちゃ貸してっ。』
旅の道中の退屈しのぎにショベルカーのおもちゃを持ってきていた。
『どうするの?これで。』
『遊んでみせるの。』
察するにおもちゃで女の子の気を引きたいようである。齢に関係なく、男はあの手この手で女の気を引きたい性なのかもしれない。陰ながら息子を応援したくなった。
『このショベルカー、すごいバランスなんだよ。』
息子は手のひらの上でショベルを上げ下げして見せた。女の子はあまり興味がなかったのか、プイッと母親の方へ顔を背けた。するとその子の母親が、
『すごいね。バランスって言葉知ってるの?』
と聞いてきた。息子はそんな問いかけよりも女の子に相手にされずしょんぼりしていた。下をうつむいて何やらぶつぶつと言っていた。
『バランスすごいんだから、、お兄さんなんだから、、だって、お兄さんパンツ履いているんだから、、』
最近、息子はトイレトレーニングの一貫でトレーニングパンツを履きはじめたことで、少しずつお兄さんに近づいた気がしている。どうやら自分のストロングポイントを女の子にアピールしたいようである。息子はおもむろに席を立ち、女の子に向かってズボンを下ろした。
『ほらっ、僕ね、お兄さんパンツ履いているんだから。』
息子の突然の行動に女の子はポカンと口を開けた。周りの乗客からはわっと笑いが湧いた。ごめん、息子よ、お父さんは長旅になると思ってトレーニングパンツじゃなくてオムツ履かせてたんだ。あとな、大人でそれやったらレッドカードだからな。
コロナ禍にもかかわらず奇しくも息子とのひと夏のよい思い出が出来た。
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