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執筆者の写真林院長

バビルサ

 バビルサはイノシシ科に属し、まさにイノシシの様な生き物である。イノシシとの大きな違いとして、バビルサは鹿の角の様な牙を持つ。インドネシアに生息し、現地の言葉でバビは豚、ルサは鹿を意味することから鹿のような角をもつ豚と言い表したのだろう。

 バビルサの特徴である鹿の角の様な牙は上下の犬歯にあたり、特に上顎の犬歯は何故か鼻の上の皮膚を突き破り頭部に向かって湾曲に伸びている。やがて伸び続けた上顎の犬歯が脳を貫くのではないかと思われた為、バビルサは自分の死を見つめる生き物としてしばしば紹介されてきた。実際に牙が刺さったことが死因につながるケースはほとんどないと考えられている。

 先日、私は奥歯のあたりが痛くて眠れぬ日々を過ごした。コロナ禍で歯科にかかるのに二の足を踏んでいたが、耐えきれず診てもらった。かつて、私は下顎の親知らずを抜いたことがある。ちょうどそのあたりが痛んでいたのだが、なんと対合歯を失った上顎の親知らずが、徐々に伸び続け、下顎の粘膜に突き刺さっていたのだ。治療によりことなきを得たが、もしあのまま受診を控えていたら、私はバビルサのように自分の死を見つめていただろう。



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